管理人だとか言う男がいた。俺の部屋に一人で立っている。顔見知を初期設定にしてしまったお陰か思い出すまで空巣で通る出で立ちに慄き、室内の荒れ具合に驚く。そして何故か説明を求める前に耳元で途轍もない轟音が炸裂。
何事だ。
「あああああ」
いやそんな、自棄になって付けた名前みたいな奇声を発されても、こっちはひのきのぼうはおろか碌な装備もしていない村人その二が精々の一般人だぞ。
にげるを選ぶ余地があるようには思えない。背を向けた途端に襲いかかられそうで目を逸らす事も出来ない。想像に歯の根が合わずに不愉快な音を立てている。
隣人は夜が仕事なのか、入居しているらしいが今時分は見たことがない。もう片方は空部屋だ。以前ここに住んでいた奴は俺と入れ違いに引っ越したとか何とか耳にした気がする。理由なんてどうでも良かった。例え壁が薄かろうと静かなら何も問題はない。問題しかなかったじゃないか。件の住人はその後どうなったか、ご多聞に漏れず流れる噂話達は何と言っていただろうか。
「あ…………の、」
後退りながら今更轟音の正体を、足元に飛散したそれを見た。砕け散った破片にこびり付いた色には見覚えがあった。一歩動かした足で破片を踏み抜いてしまった。けれど何故か、音がしなかった。確かに割れた感触もあった筈なのに、微塵も鼓膜は振れる事なく。
ほんの一瞬だった。時間にして僅か数秒。その一瞬が与えた影響は凄まじかった。
「ああああああああああああああああ」
耳朶は叫び声らしきものだけを脳に伝達する。内容を理解する前に、何故「あ」としか聞こえないのかを考えて轟音がした側の耳を手で触った。
見覚えのある色だった。
俺は咄嗟に、男の方を見た。
「これで だな」
やっと聴こえた男の声は、酷く震えていた。