ぽっかりと存在していた筈の空洞に、詰め物をしてしまったような感じだ。『どんな感じだそれ』と、不可思議そうな声で訊かれたものだから答えてやった。
「消された感じ」
『消すって、何を』
「空っぽ」
『初めから無かったものは消されたって言わないと思うんだけどなぁ』
「俺にとっては、」
確かに在ったんだ、嘘なんて吐いていない。
寧ろ『初めから』を言うならそれこそ無かったのはそっちの方なんだよ、と言いたい。非存在の消失を証明出来ない以上、こいつにとっては不毛極まりない次元の話だ。ただ漠然と在ると知っているのは、思い込んでいるのは俺だけでいいと祈り続けている。
怒鳴るような背後からのクラクションに急かされて、続きが喉から居なくなってしまって、断続的に連なる足音は次第に近付いていく。
高架下に落ちた影の間から、その顔が見えたのと同じくらい極自然に俺は泣いた。
『「空っぽさん」は今どこに?』
「なんだそれ」
「お前が言ったんじゃなかったっけ」
「そういう意味じゃ、」
無意味に、重力に従って流れるだけだった滴を男は指差して笑い飛ばした。
「何で泣いてんの」
腹が立って、それでも何処かで分かっていたような気もして傍の階段に座り込む。
「訊くなよ」
「訊くわ」
「生意気ー」
「お前言っとくけど俺の方が年上」
「三つだけじゃん」
「……俺が高三の時お前中坊になる計算だけど」
「知んないよ、そんなん」
知らないのだ。訳もなく、こんな時に言うべき言葉なんて俺は知らない。そういう人だ。そういう、男だ。後が続かなくなった声の代わりに勝手に溢れ出して止まらなくなる。殆ど発作めいていて、自分ではどうしようもない。
空を失くして、吐き出して。詰め込まれたものとの引き換えに在るものは、未だブラックボックス然とした塊でしかない。
勝手に出て来るこれにも、名前はないなら
「な、早く帰ろ。飯食ってくだろ」
「……うん」
俺は、心臓を流すのだ。差し出された手を握り返しながら。