太陽

 見下ろした寒々しいアスファルトの上を、重苦しい曇天が覆っていた。モノトーンの濃淡で構成された景色に、もう一つだけ色を注ぎ足してやるべく振り上げた拳が悠々と阻まれた。そうはさせるか。

 「痛った」

 そう来るだろうと思ってフェイントを試みた。丁度よく術中に嵌ってくれたお陰で、膝裏にヒットし損ねた爪先で再度足の甲を踏み付けた。何てガキくさい仕打ちだろうとお前は思ってんだろう。俺だってそう思う。口より先に手が出る理由に、こいつを使っていいなんて道理はないのにな。

 「んなに当たらなくてもいいじゃん」
 
 何がそんなにだ。紫煙を呑気に吐き出す唇は言葉を曖昧に濁した。
 どう転んでも嫌な展開しか待っていないシチュエーションで。下らない悪足掻きに過ぎない。
 締め出してやれたらいいのに。そうしたらこのベランダから脱する手段は、飛び降りるしかなくなるのだ。叩き付けられたら最期、真っ赤に弾けた水溜りの出来上がり。いい気味だ、上から見たらまるで太陽だな。きっとそうやって厚く垂れる雲の隙間からうっかり転げ落ちてしまったからこの所日が差さないのだな。ここからなら見えるだろうか。ぺしゃんこにひしゃげた太陽の死骸が。
 もし見下ろせたら冷めてしまう前に瓶詰め標本にしてやろう。ラベルに何を書けばいいかは決まっている。

 遠雷が轟く。そろそろ雨がやって来る。こいつと来たらいい加減部屋に戻ればいいのに、煙草は一本目が尽き、二本目に挿げ変わっている。吸殻は何処に捨てたのか、見失ってしまった。
 これ以上の追求を避けたい為の自己主張へ舌打ちをくれてやって、室内へと舞い戻った。結局窓は開け放したままでいる。

 どうしたって最悪手だ。
 勢い良くカーテンを閉めて、雨も雲も、太陽さえも遮った部屋で一人、滲んだ液晶が喚くのを見る。

明日は生憎の晴れ模様だと告げるニュースをぼんやりと、見詰めている。