流れ

 階段に雪崩れ込む通勤客が、改札から地下鉄のホームに続く道のりを無言で流れていく。切岸から滝壺に向かって落ちる黒んだ水は淀みがなく、恐ろしいほど淡々としている。

 くたびれたスーツを着た男がいた。つまりは自分。昨晩降った雨で増水した川縁に突っ立って、ちらほらと過ぎて行く学生に紛れて歩く。軽くも重くもない鞄と身体を引き摺って歩く。
 半ばまで来ると少しずつ頭が冴えて来る。ベッドを出た時が一度目の起床としたら、二度目は今だ。日に二度夢から覚める毎日、欠伸を漏らしてついでに猫背も反らした。関節から酷い音がする。
 
 目的地の道すがらには校舎があった。目立つ通りに建っていた学舎は、大分前に合併されて取り壊しの決まって粉々になった。
 古くなっていたらしいと耳にしてから、いつの間にかあっさりと更地に平された母校の跡地を、重機の入った工事現場の仮囲いが覆い隠していた。不都合な残骸を見せまいとしているように。

 通学路が分かれた年の瀬はえらく肌寒く思えたものだけれど、今も変わらず寒いことに違いはない。
 凡庸な感傷に足を引き留められているとポケットが震えた。肩を大袈裟に跳ね上がらせて驚くが、なんだ、ただの通知か、脅かされてしまった。

 犯人は……なんだ、あいつか。
 あいつ、何て言うんだろうな。知らないけど、どうでも良い顔をされるのも癪だ、俺としては。

 落ち葉が偶然手へ降って来て、急かされている気がした上に、もうこんな時間だ。
 仕方なくなく顔を上げた。
 窮屈な囲いもいつか取り払われてくれるだろうか。

「馬鹿言うなよなぁ」