敷衍、さみだれ

 花畑は定刻通りに過ぎた。途中ふっと振り返ってみる。でも間に合わなかった。その景色は列車の速度を追越せないまま遠去かり、やがて車掌が停車のアナウンスを入れた。
 そろそろだ。
 列車に飛び乗って訪れた保養地は白昼夢めいていた。小旅行気分の二人が降り立つと強く風が吹き、時刻表の立て看板を叩いたそれは線路を飲み込むトンネルへ吸い込まれて。
 日差しは弱々しく雲間から降り注いでいる。駅を出てすぐの電柱には『高台に避難』を促す標識がくくりつけてあった。
 こいつは逃げられないだろう。水底へ共に沈んでくれる唯一の道連れは商店街のあちらこちらに縄張りを持っていた。ここからここまでは俺の土地であるとの主張も通り過ぎて、潮風の中を歩いている。
 静かな景色だった。
 静かな時間だった。

 「良かったのか」
 「いいよ」
 「バスは?」
 
 誰かしらの悲鳴がしたと思って振り返ってみても、何だ、車のブレーキかと勘違いを恥じたまま彼が手を引いた。

 「せっかくなんだしさ、歩いて行こう」

 そうだった。
 せっかくの日だ。今日は歩いて向かおうと頷き手を引いた。

 少しだけ前を行きつつもまた背後を振り返る。
 駅の反対側で花畑の亡霊が見えた。
 逃げられなかったのは、きっと。