ある謂れがあってそもそも彼を彼たらしめたのは純一さの錯誤であったからに違いない。
覚めていた。
俺の頭は全くもって覚めていた。
冷徹及び悲嘆の権化、その由来はこうだ。
彼はある意味においてのみ俺を蔑み、平時においては皮相な譲歩をのみ纏いながら、諸口に流されいじましくも一等の嫌忌を塗した破綻の切れ端を汗水漬くになって欲していた。
こんな訳だから「共に歩む努力」だとかいうお仕着せの協調を跳ね除けて、ただ時の許す限り閨に散った髪を梳る間中、ひたすらに重い頭の中を紛らわす為の放言を弄し合った。嬲りものにされた追懐は酷く不満気であるし、それを察してもいた。にも関わらず二人にそんな勝手が許されて、かつてしでかした罪科を角逐し合う関係の何が疎ましかったかと問われると、やはり俺の身体の半分が別人だったからだろうと感ぜられる。
かねて彼の半分も別人であった。
本人と呼べる部分のいくらかが晒されたからといって、鬼の首を得たかの如き得意顔をして恥を重ねるには余りに厚顔無恥なので、ほんの一部を見咎めて何がしかのやり取りを交わそうという魂胆はない。もう半分が別人であるかを改めたいと働く好奇心を殺し、残されたもう半分がアリバイを持ち得るかどうかの捜査権があるのは俺だという事実を知らしめることが何より肝要だった。
例えば彼の半分に愛人が居たとする。だがその愛人は彼のもう半分に関して幾らかの興味を示し得るかと思いを馳せてみる。全くの意味がないものとして切り捨てて平然を装うだろうし、また別の考えではやはり皮相浅薄の放言を繰り果てのない戯れに限られた人生を浪費しないとも限らない。
しかしかえってもう半分の片割れが悪事の一切を認めたとしたらどうだらう。
不一致の彼の半分は一つになり、その時に俺は一つになった「彼」を、男という男、女という女をそっくり壺抜きにしてしまいながらも、無垢なままのもう半分を溶け込ませた彼を見る。その姿が渾然一体となって、俺ほどの男のもう半分をも卑しめ、残忍な見せしめにしはしまいかと畏れを抱きながら、余す所なく徹頭徹尾舐り尽くし、味わってしまいたがらないと果たして言えるだろうか。
片方ずつに分かれさした、辱めを甘んじて肉の内に受け容れる欲情的な色魔を飼い慣らす彼には、どんな清廉潔白さ、誠実さも敵いはしまいという予感に打ち震える。ただ一方で、不必要に敏いもう一方が思い詰めるあまりに俺のもう片方を盗み去って何処ぞの往来に置き去りにしてしまわないと——どうして言えるだろうか。
無為な杞憂と言って貪るのも良し、案ずるより産むが易しと誑かされても良し。いずれにせよ、彼を思うこの腑の底を占めるものそれ自体が俺には大変贅沢な、或いは世間一般に言ってどうしようもなく不純な代物なのかも知れず、けばけばしい耳年増の売女が諦め悪く彼の半分に擦り寄って猫撫で声を上げる様、要するに彼らの蛮行が悉く横行するのを見るに、まだもう半分を鏡に向かって写そうともしないから、彼の目にすら入らないのである。よしんば入り得たとして取り入る望みは薄かろう。
彼の半分と、俺の半分は互いを疎ましがる致命的なまでの別人であり、隣人にすら程遠いのである。
だが同時に、どうだ。俺の半分は彼を信じている。彼も恐らく外面を超えた何処がしかでもう半分を。
これはたぶん、羨望だった。