しもべ

 先を行く時針がふっと時刻を知らせ間違っていた。以前にも何分か誤差を認めたが今ほどでなかった為に巻き戻そうとする手間をかけなかった。そのツケが今日只今、僕一人の時間感覚を狂わせている。
幸いにも手元に時計はもう一つ二つあって、全てを合わせた平均値を『今』として納得させてみた。だが最も付き合いの長い時計が一番信用ならなくなってしまった事実には少なからず失望させられた。
 一方僕自身の概日時計はというとこれまた明け透けに空腹を訴えて丁度夜半時を報せた。どんな日に訪れようとその飢餓感だけは耐え難かった。食うにしろしないにしろ目が冴えて仕方がない悲嘆に暮れる。
 腑の底を襲う呻きを鎮めるにあたり、ない頭に鞭打ち四つ目の時計の在り処に唸った。一際喧しい上に恥も外聞もない四つ目の時計は狂い知らずで如何ともしがたい。時に主従の関係を当て嵌め、従順さが備わっていればまだ救いようがあった。つまり年季の入った古株のそれと腹の虫が手を組んでくれたのならば願ってもないのだ。
 しかしずれにずれた時の従僕となって、飢えすら夜と超えたとしてもどの道ずっと先を行ったいつかに戻って来る外ない。結局、いずれの時間の中にもそれなりの狂い方があってどれに対して従いたいかについてまで考えが及ぶ。
話が逸れてしまったらしい。ともかくも次こそは予め針を巻き戻しておかなければならない。とやかく小言をぼやかれ、世話を焼かせる男だと思わせたいのでなければ。これ以上怠惰を極めてはならない。
 思索のような空想の綿布団に包まれて次第に瞼を重くさせていれば必定、群れなした針の向こうから苦々しい渋面が浮かんでしまうのだった。