光を纏って飛び交う蛍が彼の口に飛び込んだ。躊躇いなく咀嚼し嚥下を終える。粉々になった蛍がつい今し方、胃液の海に没した。光を喰らい終えた彼はふっと閉ざしていた両の眼をこじ開ける。なんの光をも宿さない二つの水晶が虚空を眺める。定まらない視点の先を辿って行くと、また新たな蛍が翅を開いている。先刻起きた悲劇を再演すべく彼の顎が開く。舌を突き出し待ち構える。そうして新たな光を食もうと待っている。
何度目かの一度目を見ていると、まるで蛍に身体の内から照らされた彼に対してある種の神秘性を感じさえした。虚ろでいて澄んだ彼の目は心そのものだった。物質を捉えない代わりに様々なものが綾を成してくるくると映し出される。
つまり、盲目な彼は目を失って心を得たのだ。
すると途端に忘れんぼうになったという訳なのだった。最初でもなく最後にもなり得ない翅の味わいに舌鼓を打つ。食べてはいけないものでもなし、私は彼を止めずにいた。彼もまた何度やっても飽くことなく儚く舞う光を喰らい続けた。
その内気の毒にも逃げ遅れた蛍が私の指先を掠めて、忘れっぽい彼から逃れようとしていた。
「どうぞ」
故にその舌先へ光を乗せた時の高揚は一入で、心なしか微笑んだ彼の、つられて引き上がった頬を撫でていた。
飲み込まれていく蛍にいっそ嫉妬すら覚えながら破砕される光を見ていた。