劣化を免れない遊具の表皮が下地を晒す公園にだって新雪が積もれば真っ新な更地に様変わりした。ブランコを支える茶けた鎖の、ざらつきを手に取る。滑らかさに真っ向から反駁しながら、指先を汚す錆ですらなぞり続ければ僅かながら落ちていった。
誰の迎えもない帰り道、ふとなぞった砂場も生まれ変わった顔をしている。子供達が犬のように燥ぐのはまだ当分先になりそうな静けさを、そこは有り難かっているようにふっつり口を閉ざしている。始めから砂場も公園もそこにはなかったのかも知れない、という度の過ぎた微睡みの中にいてもいい。
しかしそれも梅の香りがする頃にはやがて溶け消える。誰かに聞いて欲しかった時、誰もが耳を背けた言葉がなぞっては消える。いつのどの言葉も、誰にも見つからないでくれて心底助かった。後で振り返って羞恥に身を埋める羽目になるのは御免だ。
そうこうして蟠りを一つ解き解きしながら肌の火照りが引くのを待っていたかった。
「寒くねーの」
太々しい盗人の行方を遂に突き止めたぞ、と言わんばかりのご登場に内心びくついていた。だって俺の予定では、普段よりも機嫌の悪いままの彼が態々寒空の下まで現れるのは珍しかったのだ。これが所謂成長期の成果か。違うか。嗅覚ばかり鋭くなられても困ってしまう。
「寒いよ」
「馬鹿か」
「馬鹿かもねぇ」
「かもねぇ、じゃねぇんだよ」
「何だよキレちゃって」
「そりゃ宴会抜け出して悪びれもしてねぇ奴見付けたらな。結構あんぞここ、本家から。何してんの」
慌てた様子もない、派手なスタジャン姿に中年が諭されている構図の言いようのなさと言ったらない。それが他人事でないなら殊更に酷いことこの上なく、彼が物心付いた頃には年寄り連中の相手を熟していたことを思い出せば末席を汚す一人二人の欠けが気になりもするのだろう。厄介な。大人しく退散してくれたら良いのだが、生憎とそんな気配は毛程も与えない。仏頂面の能面の何が良くて彼ら彼女らは持て囃したがるのか。理由は至極単純明快なので説明は省くこととする。全く、外見だけが取り柄でいてくれたら。
「悪かったよ。酔い覚ましだった。はい、これでどう?」
「もう一遍それ言ってみろ。はっ倒す」
「何だよそれ、訳分からん」
「分かれよ」
「……分からないよ」
分かるつもりはないよ。どの道、あんまりだ。
「ああそ。じゃあそこで一晩凍えてろ」
捨て台詞めいている、いいや寧ろ、あの口振りは意図的だろうか。一晩、だなんて。滅多な嘘にも程がある。自惚れさせないで欲しい、ただでさえ人が必死になっていると言うのに、あいつは。
「はは、冷て」
もう少し待てばいいだろうか。砂になぞって、雪になぞり続けて。