生来より病弱な彼の手足は痩せ衰えた皮と骨ばかりだった。ごつごつとして節が浮く節々の細さはまるで蜘蛛のようだと柄にもなく私は、世話を任されている青年に溢す。気を悪くするでもなしに彼は苦し気に乱れた息遣いの奥から何かを思い出したように話し始めた。
「庭木の枝葉に姿を現す蜘蛛がいるとね、巣が鬱陶しいと言って家人は皆すぐに払ってしまう。それが僕は酷く惜しい」
「惜しいと言って、君が損をするようにも思わないが。開けたままにするのはよしてくれ。体に障る」
「雨後の巣が僕は一等好ましいんだ。巡らした巣に、晴れた日中に紋白なんかを絡めとる巣にね。ふと見るとひょいと昨日の雨がかかっている。とすると、夜になって眺めていると今度は巣に月がかかっているんだ。ほら、あんなにたくさん」
彼は指した庭の方を見て無邪気になっている。久しく見なかった明るさである。
「水に月が映っただけだろう。しかもどうせすぐに乾いてしまうのに」
「そうとも言うけれど、何せ僕は外に出てはいけないから蜘蛛がそんな風に商いをしてくれるのが嬉しくて堪らないんだ」
「どんな商いだ」
「巣を壊さないお代に僕は蜘蛛に月を売って貰うんだ。そういう風に、小さな頃は月売りだなんて呼んでね?君が来ない日はついそんなことで気を紛らわせてしまう」
「馬鹿馬鹿しい」
「そうだね。夢見が過ぎると思ってはいるのだけど」
「違う、そんな事じゃない」
違う、と重ねる毎に次第に曇っていく伏し目は諦観に満ちた暗い影を落としていった。
「水を変えて来る。大人しくしていてくれ。すぐに戻る」
乾いた礼を聞き切るより先に出て行こうとする最中に袖先を引かれ、離れることが叶わなくなった。
「……すまない、下らないことを言った」
「そうだな。これまで“来ない日”なんてなかったろうに」
「お前になくとも、僕にはあったんだ」
あった、と穏やかに、けれど確かに言い切る強さに絡め取られてそれはじわりじわり引き出されていく。薄ら灯りを障子戸が格子に遮り、土気色の肌はより強く重く闇に近い色を宿していた。
「今少し待っていてくれ。頼む」
あと少しだけ、あと少し、彼の元を訪う誰もを自身にに先んじることがないように手を握り締めた。