Delaunay

 『ねぇ君は、世界の希望全てが揃って顔を背けたらどうなると思う?』

 『こんなにも』青年の全身が傾ぐ。重力に逆らい切れず傾ぐ全身が、広がった大の字のままに倒れ込んだ。仰いだまま全身を目一杯躍動させて意識の一部に入り込む。空白の原に寝転ぶ青年は朗々と騙った。それを黙って聞いている。黙らせる気も失せる妄言が滅入るこっちを余所に囁きかけている。

『全部がまるきり正反対のものになる。そしたら君はもう君じゃない。絶望に世界は塗り替わる。どれだけの希望が溢れているか想像出来るかい?手に余る程の量、凄いことにそれら全部だ。誰かに何かを与えた後で君から全てを奪っていく瞬間。矛先が向き変わる瞬間が来て』
それがどんなにか素晴らしく、どんなものにも代え難い夢想の底から彼はこちらに向かって堂々と手を伸ばした。
『そしたら君は信じられるか?』

「……信じないよ」

 暗転してから飛び込むしみったれた部屋の真ん中に呻いていた。俺はどんなに彼が手を差し出したって信じない。眼裏にまだ残っている。彼という暴力装置に従ってしまったらどうなるか。彼の“瞬間”と交わってしまったらどうなるか。考えたところで——いいや、考えてしまったが最期だ。反転世界の希望の総量がそっくりそのまま彼の切望するものに変わる。吐き気がする。早く忘れてしまった方がいい。でなきゃあんなものを見ていい筈がない。美しい絶望を信じて疑わないあの生き物に。彼は俺を何処へ連れて行くつもりなのだろう。境界線の結ばれない母点が散らばる異界から遠慮もなしに。
『君は信じられるか?僕が君みたいに愛しているって』
信じない。俺はそんな風にはならない。お前みたいになったって所詮無理な話だ。退化する夢想の中でだけ腹を空かせた希望に食い尽くされてしまえ、妄言。