『昨日のメニューは?』
随分と巫山戯た言い回しだった。深呼吸を挟んで言われた通りの手順で瞼を閉じる。
「……糸鋸」
『鋸?』
話し掛けて噤んだ唇が急速に乾いて千切れそうになる。思い切って話し出さなかった事を悔いた。
「誰だか分からない。その誰だかの、足を、切るんだ。
相手、は泣きも喚きもしないから 鋸がどんどん深いとこまで沈んでって、それを、他人事みたいに眺めてる。切って、いるのは俺だけど……そんな夢」
吃音混じりの聞くに耐えない話に受話越しの男は黙って耳を傾けていた。或いは、聞き流していただけなのかも知れない。それならそれでいいと思った。
『誰だったんだか判らなかったの。相手』
「知らない。俺も相手もガキの頃みたいになってたから」
『……へぇ。貴方の小さい頃って、興味ある』
「俺はないよ」
『華奢だった?』
「鍛えてたよ。それなりに」
『鋸の大きさは』
「知らない……でもガキの手には余る大きさだった」
『切った足は』
「断面が 断面 か、ら」
あれ。どうだったんだろう。
先程見たばかりだというのに、既に曖昧さを伴い出した夢に吐き気がする。裁断された足は、それからどうしたんだったか。
思い出せ でないと また。
『覚えてないならいい。思い出したらまたかけて』
「—— 、っぁ ま——」
ツ——————————————
「起きて。時間だ」
白い天井白い壁。
なんだっけ、此処。嗅ぎ慣れた匂いが近づいて来る。
「意識が混濁しています」
おかしいな。まだ目が覚めないままなのか。もう眠ってはいないのに。
「おはよう。今朝のメニューはどうだった?」
酷く巫山戯た言い回しだった。
辛うじて動かせる首を、左右に振る。
「そうか。それは残念だ。そうだね……次はどんな夢が見たい?」
にこりと微笑んで訊ねる男の顔は、逆光で見えない。切り取られた様に、ぽっかり穴のように口を開けた暗闇が、顔目掛けて近づいて来る。
近付いてい く 。
「ぅゔぅぅぁぁぁぁァァァァアアアアアァァァァアアアアアア‼︎‼︎」
『大丈夫?』
「なんでもない。すこし吐いただけだ」
『そう? 無理しても仕方ないよ』
「分かってるよ 」
『聞き飽きたなぁ、それも』
受話越しの声は、いつもより退屈そうに間延びしていた。
「日記でも付けようか。いつ何を話さなかったか忘れないように」
『……おすすめしないかな それは』