day2
「んぅ……っ」
日も昇りかけない頃、奇妙な囁きに目を覚ました。
「ライダ……?」
無理を言って同部屋になった彼は寝起きが良くはない。だからまだ夢の中なんだろう。隣に並んだベッドの上で、そうやって毎朝先に起きるのだ。そして起きるまで待たされるか時間ギリギリになって起こすかのどちらかだった。
どうしてもっと早めに起こしてくれないのかと臍を曲げられた事もあったな。始業に間に合わないとか何とか。案外真面目に人間やってる所が好きだ。だから、朝が弱いと知って益々起こせなくなった。
勿論、寝顔を眺める時間を増やす為に決まっていた。言ったことはないけれど。理解されるとは思えないし、しなくとも構わない。だってそんな事に気が回されてしまったら自分より早く起きようとするかも知れない。それは大いに困る。
だけど今日は具合が違うようで、苦し気にも聞こえる寝言は徐々に呻きに近くなっていった。
「どうしたの?まさか風邪……」
「にゃっ⁉︎」
他の動物のような奇声と共にライダが勢いよくベッドに潜り込んだ。布の山が出来ている。どうも違うらしい。
「おはよ。早いね、大丈夫?」
「らいじょうぶ……」
辿々しい返事は調子が悪いとは少し違うようだ。大丈夫ならいい。まだ人馴れしていない内は色々あったから、反省を踏まえて行動出来るようにもなった。元々ライダも自分も、ある程度力を持つ魔物なのだ。群れを為せないのんびりとしている一部の魔物が人間に殺されないように、こうして紛れ込んで生きる方法がある。彼らはまだ気付いていないようだけれど、いつかはバレる時が来るだろう。その時まで、こうして学園の寮生として共に暮らして行けるのは奇跡に近い。だから大事にしたい。些細な事で破綻しないように気を付けながら、上手く生きて行きたい。当然、彼と。
「ほんと?」
もぞもぞ蠢いていたライダが動きを止める。何だろう、不可解な生態だ、人の事は言えないが。
ベッドの端に腰掛けてライダに寄り掛かる。重い、と小さく声がした。
「嫌な夢でも見たの」
「違う」
あ、顔が出た。亀みたいだな、本当は自分なんて及びもしない飛竜なのに。
「……嫌ではなかった」
夢が原因ではあるらしい。成程。真意はさておき、内容の程は確かめてみる価値がある。
「どんな?」
「言えない……」
その言い方は「言いたくない」がより近いと感じる。
「あ、俺の夢だったりした?」
なんてね、冗談だ。何もそこまで夢想家じゃない。そうなら嬉しいという願望だ。ロマンチストではありたい。同じだろうか。
「‼︎なんで——」
がばりと跳ね起きたライダの顔は見事に赤く染まっていた。
「……図星?」
鎌をかけたつもりはなかったけれど、どうやら正解を引き当てたようだ。ばつの悪そうな顔を背けてしまわれたけど、良いかな、と勝手に判断して一緒にベッドに寝転んだ。
「わっ、ユリア?」
「赤いよ」
あと熱いね、と頬に手を添えて笑う。顔に出やすいなぁ、素直な可愛い、僕だけの君。
「……ごめん」
「何で謝るの」
俯かれてしまった。いつにも増してしょげているような、申し訳なさそうな表情だ。無いはずの耳が垂れて見える。
「と、まんなくて」
「……なにが?」
不意に抱き着いて来た彼が身体を隙間無く密着させる。そうすれば必然的に伝わる身体の凹凸で、窮状を訴える。
「昨日、シたから、それで」
「思い出しちゃったんだ」
力無く頷くと耳元で熱い吐息を感じた。腰回りを撫でると甘い声で鳴く。目は潤んでいて、発情してますと言わんばかりだ。まだ達してはいないのかも知れない。
「な、これ、どうしよう……」
「……遅れちゃうよ?」
「あ——」
気付いてなかった、と残念そうに眉を下げる。
仕方ないなぁ、そんな顔されたら。
「……少しだけだよ?」