真ん中

 二者択一の罠に目眩を起こしてしまいそうになって、だけどどうしてもそれで今朝は目が冴えていた。忘れずに巻き戻していた時計を触れずにいる。

 なぁ、どうすればいい?俺はあんなものに迷わされてしまった。これまで通り覚めていた筈の朝に寝息を立てていい訳がない。
 あれはもう俺のことを見付けた。朝、朝、朝になってもこの妄想は消えてくれない。罠だ、あんなものは幻覚だ。下らない、鵜呑みにしても変わらない。取り止めもない甘言に惑わされて、時計を戻し忘れてしまったことが次第に鮮明な事実として突き付けられると、いても立ってもいられなくなった。

 「なぁ……何処もおかしくないか?ほら、お前のだろ、気に入ってた。嫌いな色だったのに」

 針の動き続けてしまう時計を横たわる腕に巻き直す。

 【進むべくもない】

 「平気だよ。どうかしてただけだから、心配するな」

 昨日は会いに来ない。ずっとそうだった。これからもずっと無慈悲なまま夜の女王はやって来る。目障りに明るい窓外から室内を遮ろうとしたが、そのままにして、と言うように街路の光がベッドヘッドを照らしている。

 「……いつになったらまた会える?」

頬を撫で口付けを落としても、針は進み、光は刻一刻と傾き続けた。
『分かっているんだろう?』
念を押さなくたっていい。俺はここを離れようとしない。いつまでも同じ朝にいる。だってそれが一番の幸いにほかならない。また会える日は来ない。しかしいつだって奴は現れるだろう。二度と巻き戻らない、この部屋の真ん中に。