Autopsiesaal

「ああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああっっああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっああああああああああああっあああああああああああああああああああああああああああっああああああああああああああああ」

 壁という壁、鼓膜という鼓膜、境界という境界を貫く叫びが全身を駆け巡る。堪らない。大好きで堪らない人。削れてしまった人の残滓を掻き集めて、必死に抱き締める。ひん剥いた両目の焦点は今何処を彷徨っているんだろう。随分と昔に購買の売れ残りをくれた日の午後だったらいいのにな。いつまでも俺の中にある、一番の日だったよ。
「あ、っぇ……っぇ……っ」
「ひ、くん……緋田くん……‼︎」
 嗚咽は出る所を間違えてしまったように間断なく漏れ続け、汚らしく流れる。もっと強く抱きしめようとしたら、視界が弾けた。
「ぉ……っ、ご……‼︎」
「ぁっ、れのせいだ、だれのせいでおまえがぁああ」
「待っ……っぁい……!」
 明滅する。目の前が落ちる。緋田は涎を吐き散らして、俺の内壁を殴り付けるように抉る。塞がれた気道の隙間から辛うじて咽ぶ。不思議なことにいつもはそうして意識が飛ぶのがお決まりだった。でも落ち際に気付いた。でもね、緋田くん。
「ぁぁあああ……っ!んで……なんでぇ……‼︎」
 俺は大好きだから覚えてるんだ。思い出させてあげたいんだ。俺の先輩が居たんだって。

 乾いた秘部は酷い惨状だった。風呂に入るべきなんだけど彼の部屋では許されない。押しかけた方だし。このまま自転車なんて漕いで帰ったらどうやっても冗談抜きに叫びそうだ。やっぱり捨てて来て良かったな、あれ。
「もう来んなよ。部屋変えるから」
「何処に?」
「言うかよ」
「えぇ、何で」
「寄るな、きったねぇ」
 それはそうだ。俺も近寄られたくないだろう。けれど帰巣本能のように緋田を求めている。来るなだって。でも俺とともだち辞めてどうすんだろ、この人。間違えた。ともだち辞めたら俺はどうするんだろう。
『無機物に顔が付いていて皆俺を見てる』
『皆笑っている。いつもいつも煩いくらい喚いていて耳障り』『煩い、煩い、煩い』ってヤった後に部屋の中をぐるぐるぐる何時間も彷徨く癖はいつの間にか治ったのかな。
 けれど、そう。一つ一つのあらゆる物事を順繰りに終わらせて行けば良い。最期の最後が決まっていれば、何の迷いもなく終わってもそれで。
 服だけは引っ掻き集めてアパートの外に転げ出る。
「ねぇ」
閉じ切った扉の奥に、瞼の奥にさんざめく彼はまだ緋田のままでいられるのだろうか。分からなかった。分かって欲しくなかった。

 「……またね、せんぱい」