青年の言った『同じ目に遭う』は、事実だった。尤も彼とは違って居座り続ける事情はなかった。ずっと間借りしていたのだから時が来れば出て行くのが道理だった。
秘密基地には結果として、行方不明になるには十分な間一緒にいた。二人は一緒に迎えられるものだとばかり思っていた。しかし実際はそんなことは起きなかった。保護されてから実親は傷ましさを口にしたが、決して青年については触れようとしなかった。必死になって訴えた。『兄がやった』のだと伝えたかった。
誘拐事件。その四文字が結果として手元に残った。犯人は未だに失踪中。捜索願は出されていない。実親は無闇に励ましを浴びせ労った。どれだけ怖かったか、どれだけ傷付いたかを丁寧に刷り込もうとしていた。何を企図していたか分かったのは、数年経って青年と同じ年齢に差し掛かった年だった。その頃にはもう皆、昔の騒動なんかは忘れ去って、昨日のことのように繰り返し反芻していたのは紛れもなく『被害者』だけだった。だから、とあれこれ繋げてみる。だから、同じ目に至る。だから、この部屋にいる。家主の不在になった部屋は今や自室となっていた。戻ってからの忌避は明らかだった。騒ぎの後に労わったのは単なる確認に過ぎない。『お前は違うだろうな』。何度となく試され、裁定は下された。『所詮はポーズだった』と。結局のところ、外野にすれば危険人物が身内に手を出した。その程度の情報しか行き渡らなかった。
『遊びに行こう』と青年を唆した時間の前で室内はきっかり留まっていた。鍵は青年が置き去りにしていたので、新たに付け替える必要はなかった。追いやられた気はしなかった。ここが家。だから、灯りを点ける。予想以上に眩しい。消した所で暗いだけだ。部屋にはもう何もない。虚しささえ欠片も残っていない。四方に壁があるだけ。
青年は何処に消えたか分からないままだった。逆戻りになった。見付からない。異なっているのは部屋を手に入れたことだ。いなくなった家主になろうともした。形を取り戻したかった。彼を投影出来る方法を探した。家財に手を付けず、配置も変えずにいた。古い部屋にあったのものは一つも持って来なかった。
お前に宛てたものがあるよ。持って来るのを忘れたけれど、今度探してご覧。
何度も唱えながら探してみても、何を宛てたか知らされなかった事実が邪魔をしてそれらしきものはいつまで経っても出て来ない。押入れもひっくり返して漁った。あったのは埃ばかりで、打つ手がない。
どれくらいか後になって、探すのを辞めた。
彼は何も宛ててなどいない。恐らく宛てたのは時間だったのだろうと。幾年にも渡り彼の面影を被って過ごした。片時も肌身離さず抱えていた。彼はこの空白を宛てたことで、『弟』ではないものを縛り付けた。それで満足だった。埋まらないのは当然だ。脱力して、残された全ての中央で寝転んだ。電光が一際目に沁みた。
漸く見付けた。ここにあったのだ。二人はここにあった。
押入れの向こうで、隣室の子供達が燥いでいた。今ではもう兄弟の部屋は開け放されていて、そこに聞く者はなかった。